2007年02月20日

紅月家の裏事情

それは中学3年の冬のことだった。

もう受験まで後わずかしか時間は残されていない。
そんなある日、光也は両親から大事な話があると言って居間に呼ばれた。


「話ってなんですか。明日は最後の模試なんですけど」
「模試など受けなくてもいい。もう受験勉強などお前には必要ない」

座卓に視線を落としたまま目を合わせようともせず、父はそう言った。
光也は父の言葉の意味を理解できず、何度も頭の中で反芻した。

「…父さん。どういうことですか。」
「どうもこうもない。お前はこの高校へ入るんだ。いいな。」

そうして初めて見せられた銀誓館学園のパンフレット。
その時の光也には、学歴・立場・権威至上主義の両親が何故このような暴挙とも思える行動を取ったのか理解できずに居たのだが、そこはそれ。やはり彼の両親にはそれなりの思惑があったのだった。


その数日前の事
posted by 紅月 光也 at 21:27| Comment(1) | TrackBack(0) | 【設定】追憶の物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月25日

家族と兄と俺。

「―――明けまして、おめでとうございます。」

静かな部屋に響いた俺の声は、けれど父や母の心には届かない。
やはり、正月だからといって寮から帰ってきたのは間違いだったのだろうか。


「やぁ、おかえり光也。」
サッと障子を開いて兄が入ってくる。

「あ、兄さん。おめでとうございます。」
「相変わらずだね、光也は。コーヒー入れたから、おいで。」
そう言って、兄は正座していた俺の頭に手を乗せてくしゃりと撫でて出て行った。

この家で、唯一俺のことをきちんと見てくれる兄は、こんな風にいまだに俺のことを子ども扱いすることがある。9つも年が離れていれば当然といえば当然かもしれないが、そんな兄の余裕が憎らしくもあり、また誇らしくもあった。


「……帰ってこなくてもいい。」

部屋を出ようとした俺の背に呟くような声が届いた。
わかっていた事とはいえ、やはり胸に苦い物が走る。

「…それではご近所に奇異に映りますので年に一度は来ようと思います。」

背を向けたまま吐いた言葉は、自分でも驚くほどに無機質で他人行儀だった。
俺だって、こんな温かみに欠ける家に帰ってくるくらいなら、
寮でレイヤや天野などと過ごした方がよほど楽しいのは分かっている。

(だけど…世間の目を気にする貴方達に合わせてやっているんだよ。)

背後から更なる言葉が出ないのをいい事に、そのまま部屋を出た。


あの頃から…あの人たちは何も変わらない。
いや、まだあの頃のほうがある意味マシだったのかもしれないな…。


…2年前…
posted by 紅月 光也 at 21:30| Comment(1) | TrackBack(0) | 【設定】追憶の物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月29日

夕陽の屋上に過去を思う

 ここは郊外のベッドタウン。駅前にはバスターミナルと申し訳程度のショッピングモール。都市部へと出かけるのに交通の便がいいこの地では、大きな集客施設はさして意味を持たないのだろう。そして、代わりに乱立するのは大小数多の学習塾ばかり。受験戦争の前に大手進学塾同士が生徒の争奪戦を繰り広げている。

 そんな中の一つ、毎年難関校への進学率トップクラスを誇るある大手進学塾の屋上に、紅月・光也は立っていた。足元には、ささやかな花束が風に揺れている。

 昨日の夜半からしとしと降りつづけていた雨も夕刻前には止み、沈む陽が西の空をうっすらと朱に染め始めていた。

「そういえば…あの日も、こんな天気だったよな」


〜追憶〜
posted by 紅月 光也 at 18:08| Comment(6) | TrackBack(0) | 【設定】追憶の物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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