2007年02月20日

紅月家の裏事情

それは中学3年の冬のことだった。

もう受験まで後わずかしか時間は残されていない。
そんなある日、光也は両親から大事な話があると言って居間に呼ばれた。


「話ってなんですか。明日は最後の模試なんですけど」
「模試など受けなくてもいい。もう受験勉強などお前には必要ない」

座卓に視線を落としたまま目を合わせようともせず、父はそう言った。
光也は父の言葉の意味を理解できず、何度も頭の中で反芻した。

「…父さん。どういうことですか。」
「どうもこうもない。お前はこの高校へ入るんだ。いいな。」

そうして初めて見せられた銀誓館学園のパンフレット。
その時の光也には、学歴・立場・権威至上主義の両親が何故このような暴挙とも思える行動を取ったのか理解できずに居たのだが、そこはそれ。やはり彼の両親にはそれなりの思惑があったのだった。


「いやぁ、おたくはよろしいなぁ。星夜くんでしたか。よいとこ就職しはったらしいですな」
「えぇ、おかげさまで。下の息子はろくでもないですが…いや、お恥ずかしい」

光也の父、慎也は土地の名士である紅月本家の次男であり、この日は親族会議が行われていた。
家が家だけに、妻の美夜子も実は旧華族の血を引く家柄だったし、その場に揃っている彼の兄弟親族もみな、それなりの格式を持つ家柄の相手と結婚したものばかり。
とはいえ、親族会議とは名ばかりの、世辞と心にも無い謙遜、オブラートに包んだ牽制の飛び交う、蹴落とし合いといった意味合いの強い場であったのだが。


「あら、慎也さんのところの下の息子さんも、成績優秀なんじゃなかったかしら。ねぇ?」
「いえ…私の教育が悪かったのか…何やら良く分からないのですが…その…」
「成績落ちはったんかいな?そら良ぅあらへんな。」
「あぁ…まぁ、そうなんですが…えぇと…」

叔母や義兄の心配そうな声の裏に潜む思惑を考えると、息子が起こしたとしか思えない奇怪な現象の数々を話すわけにもいかず、口篭もってしまう。
そこへ助け舟のように口を挟んだのは、遅れてやってきた彼の兄だった

「なんだ、まだこんな不毛なことやってたのか?」

紅月聡一。紅月本家の長男でありながら、各地を放浪してオカルト的な話を聞き集めるなど奔放な性格を発揮し、その為に跡目の相続権の放棄までしたという変わり者だった。

「聡一くん、今ごろやってきて何のつもりだね?」
「お義兄さんには用は無いよ。慎也、相談があるんだけどちょっといいかな?」
「え、あぁ。手短に済ませて下さいね。すみません、少し失礼します」

どうやら兄は慎也に用があったらしい。
後をついて廊下を歩いていくと、ふと聡一が足を止めた。

「光也君、だっけ。あの子、いつから『あぁ』なんだい?」
「な、何を…」

心配していたことを長年会ってもいなかった兄に言い当てられて慎也は動揺した。
いや、本当は誰かに相談したかったのだが…それは己の立場を危うくする事になる。

「変なのはあの子だけじゃない。全国にあぁいう子が今増えているんだ。」

そう言って、兄聡一は庭へ下り、語り始めた。

―――僕がそういうオカルトじみた話が好きだったのは、慎也も知っているだろう?
神話とか伝説とか、土地に伝わる伝承なんかを研究するうちに、廃墟に出る幽霊話なんかもよく聞くようになってね。何故だか分からないけれど、僕はそういう話に惹かれて、色々調べてるんだ。
その関係で、光也君みたいな不思議な子の話も見聞きするようになったんだ。

「…で、兄さんは何が言いたいんですか」
「光也君みたいな、不思議な子が集まる学校があるんだ」

聡一は慎也に書類が入るような大きさの封筒を差し出してきた。

―――どこをどう調べても、普通の私立高校なんだ。慎也向けに言うなら、普通の進学校へ入れて問題児扱いされるより、最初から似たような子がたくさんいる場所に入れた方が面倒じゃないんじゃない?それに、うちの親族の好きそうな普通の良家の子女も、そこそこ居るらしいよ。

「……光也を、ここに入れろと?」
「慎也だって、手元に置いておくのは怖いんじゃないの?」
「……だが、次男とは言え…」
「だーかーら、適当に『早いうちから良家の子女との交友を…』とか言えばいいんだよ」
「しかし…」
「しかしも案山子も無い。とにかく、光也君はここに入れる事。いいね?」

それだけ言い置いて、聡一はそのまま庭の裏口からどこかへ行ってしまったのだった。
そして…慎也は釈然としないまま、何故かいつの間にかそうするのがベストだと思い込み、光也を銀誓館学園へ入学させる事を決意したのであった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


あんな言い方…本当はしたくなかったんだけどな。でも慎也にはああ言うしか、無かったんだよね。ごめんね、光也君。

この聡一なる光也の伯父が、何者であったのかはまた別のお話。
(でもまぁ想像はつくかな?/笑)
posted by 紅月 光也 at 21:27| Comment(1) | TrackBack(0) | 【設定】追憶の物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そして、この話はもちろん光也は知りません。
背後がこう、家族の裏の裏まで設定を作りすぎて、書きたくて仕方が無かったネタらしいのです。

べ、別に華麗なる一族の見すぎとかじゃないですよ?
元々キャラ作った時から考えてた設定なんですー!

まぁうっかり伯父さんがすんげぇ頑張っちゃったのは予想外でしたが。(苦笑)
Posted by 光也の背後 at 2007年02月20日 21:54
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